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04.「マグ」前編

ちわっす、俺、アンドレっていいます。

今日、ピーターがカゼひいちゃってえ・・

ホント、馬鹿はカゼひかねえってから
あいつだけは大丈夫って思ってたんすけどね、ハハ。

え、嫌いなのか?って

ピーターのこと?

冗談じゃない、親友だよぉ。

マブ中のマブさ。

えっ?じゃあ家男は?って

う〜ん、ちょっと難しいんだな、それが。

もちろん大好きさ、シンから好きさ。

きいてんだろ、もう家男のこと、ピーターから・・。

ホント、なんてったらいいのか・・でも
マジメにあいつのためだったら俺は命張ってもいい。

もし、誰かふざけたヤロウが
家男に中途半端なことしやがったら、、マジで
俺がふつうじゃあスマさないよ。

って、こんなコト言うとあいつの怒るんだよね。

「アンドレ、おめえの命はおめえ自身のモンだ
つまんねえこと言わねえでくれよ」

って調子さ。

あ、そうか?おじさん
俺に訊きたいんだよね、ハハハ。

俺ぇ頭ワリいからよ、すぐ忘れんだよな、ハハ。

えっ?なんか飲むかって?

へ〜、気前いいっすねぇ・・。

そういやあピーターが言ってたけど
なんでも家男の話すると
ビールおごってくれるんだって?

どおりでピーターの野郎が今朝、悔しがってたはずだ。

いつもの“学校カゼ”ってのじゃあなくってさ
残念ながら今日のはモノホンだってさあ。

そうだね、実は俺はビールは飲まないって言うか
やめたんだ、酒もタバコも、、

ほんでもってシンナーもさあ・・。

聞いてんだろう、俺のシンナー中のこと。

あいつホント、ベラベラくっちゃべりやがるから。

えっ?あ、飲み物だね

じゃあスンマセン・・頂きま〜す。

「おーい、ネエちゃん俺にミックスジュースくれよぉ、、
そんでもって、シロップは抜いてくれ

イチイチうるさいこと言ってゴメンよ〜

なあ、今度デーとしようよなぁ、って
ハハ、どさくさにまぎれんな、って?」

じゃ、話すけどさぁ・・

そうさねえ、ボクシング初めてから
酒もタバコもいっさいやめたんすよ。

シンナーなんてとんでもねえっすよ。

俺、プロ試験受けるつもりなんすから。

よくやめれたなって?

家男のおかげですよ、みんな。

親友?・・そんな生やさしいモノじゃあない
あいつは俺にとって・・・。

俺、もちろんホモじゃあないっすよ。

おじさん、誤解しないでくれよ、ハハハ。

でも、そんなの抜きにしても
俺にとって家男はやっぱり特別なヤツさ。

もち、ピーターだってマブっすよ。

でもさあ、なんて言ったらいいか
俺、頭、ホンキでワリいからさあ、ハハハ。

そうっすね、、、

でも、おじさんだって
そんな家男に興味があるから俺たちに
あれこれ訊いてるんだろう?

え?俺が明るいねっ、てえ?

そう見える?

へえ〜、そういやあみんな言うね、最近、俺のこと。

でもさあ、訊いてるんだろうピーターからさ

以前の俺のこと・・・。

えっ?
訊いていいか,

って?
なんのこと?

おじさん、そんなにあせんないでよ。

大丈夫だって、俺、、平気なんだよ最近は。

何でも訊いてくれって。

えっ?チックって
ああ、俺の鼻の頭クシャル癖のこと?

だ、大丈夫だって、おじさん。

おこりゃあしねえよ。

でも、ピーターのバカ
そんなことまでしゃべりやがったの・・。

ホント、あいつは、・・って

でも、そうなんだ・・ボクシング初めてから
直っちまたみたいなんだ。

でも、緊張したりすると
たまにやるけどね、未だ・・ハハ。

そんでも、もう大丈夫だよ。

ボクシングって、、今の俺の命だね。

ホント、楽しくってさあ。

そりゃあ練習とかは厳しいし
会長はガミガミうるっせいし・・・

でも俺は、もう以前みたいじゃあないんだ。

ねえ、おじさんは家男のこと見たことないだろうから
どんなヤツか察しもつかないだろうねぇ?

ケンカ強いかって?

そこんとこが難しいんだよなぁ・・。

さっきから言ってるけど、俺は今ボクシングやってるっから
まあ、その辺のヤツに負けるつもりはねえ。

でも、ガキのケンカなんか
ハナからするつもりはねえけどさぁ。

家男っすかあ・・・

元々、あいつをぶん殴るなんて
俺、考えることさえできないっすよ。

そんなこと口に出したって、それだけでもイヤな気分だ。

おじさん、俺にヘンなこと言わせんなよなあ
ちょっと、気分悪いぜマジでよぉ・・・。

まあ、なあ・・・

でもさ、俺が通ってる錦糸町のボクシングクラブには
インターハイでベスト4にまで行ったヤツがいる。

ま、「錦糸町の星」って感じかな、ハハ・・。

会長なんか、もうそいつにメロメロになっちゃてて
なんだよね〜なんでも優等生って得だよねぇ。

でもさぁ実際、そいつは
まあ、動きがキレイってか、悔しいが
いまんとこちょっと分が悪いかもな・・俺でもさぁ。

でもさ・・・なんてんだろか

そいつより家男の方が強え!って
俺、そんな気がしてしょうがねえんだよねぇ。

でも、実際には家男なんて
ケンカしたことすらないんじゃねえのかな。

んでもさ、ビビってるアイツなんてのも見たことがねえ。

どんなのにカラまれても、いちゃモンつけられてもさ。

えっ?じゃあ、どおすんだって?そんな時。

そうねぇ、、アイテがビビるね、まずは。

ほんで、相手は
手なんか出すどころじゃあねえよ。

おびえまくってさあ。

なんでかって?

俺にだってわかんねえよ。

もちろん、誰かが家男に手え出しやがったら
俺がだまっちゃいねえ。

そんでもさ、そんな心配はまず無用だね。

だってさ、アイテがビビって
ハイ、それでおしまいって・・・

なんで?って、だから言ってんじゃんかよ
ワケがわかんねえ、って・・。

ああ!そうだ
今日はこれ、この話しにきたんだよね。

俺ってホント頭ワリいから、また忘れちゃってた。

あれは、そうだな一ヶ月前のことだ。

もう、正月すんで成人式とかで
町中、ベベ着たカタギのお坊ちゃんとお嬢ちゃんが
きゃんきゃん言いながらふらついててさぁ。

俺も来年だけどねぇ・・。

いや、そんなこたあイイんだ、どうでも。

家男だよ、家男・・・。

いつものように、いつものメンツで町をふらついてた時だ。

俺と、ピーターとそして家男。

もっとも、そん時は
家男になついてる中坊二人、お供につれててさぁ・・。

駅前フラワー商店街をいつものようにうろついてたんだが
時間はもう夕方と言うよりは夜に近かったはずだ。

なんか、ハラ減ってきたから
じゃ、ってんでラーメン屋でも入ろうかぁ

なんて考えてた、、その時・・

と、突然・・俺たちの目の前で
なんか、女が大声で叫んでやがるんだ。

「だからぁ今日は気がむかねえって言ってんだろうがあっ!
しつけえんだよ!キンタマけりつぶすぞ、このヤロウ!!」って

まあ、カタギの女じゃあねえのは
これですぐにわかった俺たちだが。

あっ、て間に人が集まってきて輪っかになってさぁ。

そんでもさぁ・・どいつもこいつも
もめ事に巻き込まれるのがヤなんだろうね。

リーマンな通行人ナンテみんな知らん顔して
見て見ぬふりってヤツさぁ・・・。

見てみると、パンチパーマで
典型的ヤーさんルックのオッサンがひとり。

ボサボサの赤毛女にキョーレツな悪態つかれてて
あっ!こりゃぁ、かなりキてるぜっ、てフンイキだ。

シュミワル悪ハデハデ赤ヤッケと縦縞ズボンのオヤジは

「このアバズレがあ!こらあ、オトシマエつけっぞ!!」

って、わめく・・野郎、、やっぱ、明らかにヤー公だよ。

そうこうしてるうちにヤーオヤジは
女のボサボサ赤毛をわしづかみにすると
やや奥まったパチンコ場の自転車置き場に
ぐいぐい揺さぶりながら引きずり込もうとしてる。

その時、ピーターが思わずつぶやいた。

「おい、マグだよあの女」。

ここでちょっと説明するけどさぁ

俺たちのモト同級生に「マグ」って
あだ名の女がいたんだが

モトってのは、つまり中退しちまってさあ・・。

あいつは、ひでえアバズレで
どうしようもないスケなんだよな、これが。

なんでも高校一年の時、チンピラの彼氏とつきあい始めてから
その野郎にしゃぶヅケにされちまったって噂なんだが

北千住で実際に
タチンボしてるマグを見たってヤツもいるくらいだ。

いつも、ひでえ厚化粧でガリガリにやせててさぁ
ボサボサの赤毛を腰までのばしてて
そのうえいつも、まっ昼間から
酒くせえか、シンナーくせえ息でやがる。

まあ、まともなヤツは近寄るのもいやがってるし
噂では、5000¥ほど握らしゃあ
誰にでも一発やらせるって話だけどね。

俺はもちろん買ったことなんかねえ。

あんなアバズレのマタグラなんか
カネ積まれたってゴメンなさいって感じさぁ。

えっ?両親はって?マグのかい?

それがさ、、かわいそうなんだぁ・・、マグが5歳の頃
父ちゃん母ちゃん共に事故で死んじまったそうだ。

なんでもトラックに追突されて
ガードレールに乗り上げてから断崖絶壁にダイブしてさぁ。

そりゃあ無惨で哀れな最後だったらしい。

ダンプの野郎は酔っぱらってたって話だが
ナントさぁ、「桂木運輸」の従業員、なんて

表向きはさぁ・・。

何が「桂木運輸」だよ。

なんのことはねえ、その実は広域暴力団「桂木組」ってんだから
ジュンジョウでマジメなボクちゃんでも、ヤになるぜ。

で、、その実、ヤロウは桂木組のチンピラで
っと、おじさん桂木悟朗のことはピーターから訊いてるよね?

せがれがアレならオヤジだって、ってのだ。

どうしようもない極道なんだよね、これがさぁ。

それで、そのバカ運転手は・・わずかに2年で出所。

遺族に払った賠償も微々たるモンで
保険金も桂木に上納して、、ハイ、チャンチャン・・。

なんでも、・・
てめえのとこにかかる火の粉を恐れた桂木のヤロウが
あちこちに金積んだり脅しかけたりで・・
政治家やら警察にソートー圧力をかけたって噂だ。

世の中なんて、そんなもんだよねぇ、ホント。

そんでもってさぁ、、可哀想なのはマグだ。

一人残されたマグはしばらしてから
親戚とかいう、40がらみで未だ一人モンって
気味の悪いオヤジに引き取られたんだが

コイツがどうしようもない変態オヤジで
人一倍のエロ本好きでソープ通いを自慢するは
そんくせ酒癖はどうしようもなく悪い。

一杯飲み屋で客ともめて暴れ
たたき出される出入り禁止になる、、なんて
日常茶飯事のことさぁ。

そんなクソオヤジにさぁ・・・
14の年、マグは酒を無理矢理飲まされて
酔いつぶれてる時に野郎に強姦された。

マグは泣きながら家を飛び出し
1週間ほど行方不明になってたんだが
なんと、水戸で乞食同様のところ、発見、保護されんだが
結局、誰も引き取り手がないってことで、やっぱ
親元にってことで、再びクソオヤジの元に戻されたんだ。

学校とか警察とか、教育委員会とか
ホント何もわかってねえクセしやがって。

そりゃあ、グレるよなあ。

あいつの「マグ」ってあだ名なんだけどさ
本名は真貴田真理子って立派なすぎる名前がある。

もっとも、俺だって「安藤玲」って
ハハハ、完全に名前負けしてやがる。

でさぁ、ある時ある日
新小岩北口のパチンコ屋で
酒とクスリでグデグデになってるところを
警察にとっつかまってポリ所につれてかれ

名前を尋ねられたんだが
これがまともに口が回る状態じゃあなかったらしい。

本人は真貴田真理子と言ったつもりが

「マグディ、マリガ・・・」って

なんかそんな風に聞こえたって
その場に居あわあせた口の軽いポリ公が
後で飲み屋で笑い話にしてさ・・

それが新小岩中に広がって、それからさ・・・。

そんで・・「マグディ」
あるいは「マグ」なんてみんなに呼ばれてる。

おっと、話の続きだ・・。

俺たちはちょうど出くわしちまったんだよな

マグがヤー公にカラまれてる、まさにその時に・・。

距離はせいぜい5メートルぐらいか、俺たちからさぁ・・。

事の原因は?

どうやらこの野郎はマグを“買おう”としたらしいんだが
どういう風の吹き回しか、その日のマグは
その気にならなかったようだ。

それでも、しつこく迫ったこの野郎は
キレたマグに大勢の前で口汚くののしられた。

フラワー商店街のど真ん中で、だぜぇ。

怒りで顔を真っ赤にしたそのヤー公は
てめえの周りの人垣に気づくと
目を露骨にサンパクにしやがってさぁ。。

「こらあ!見せモンじゃあねえぞぉ!!」

って、誰彼かまわずいちいちガンたれては
すごみきかせて吠えてやがった。

そして、マグの赤毛をわしづかみにねじ上げ
二度三度乱暴に揺さぶるとひっころがし・・

マグは顔面を露骨に地面にぶっつけたみてえだ。

バッチッ!ってイヤな音がしたからね・・。

やっぱ口を切ってる、、血が出てる。

「いてえんだよー!このヤロウっ!!」って

マグが野良猫のように金切り声あげて反撃するが
でも、やっぱチンピラでもヤクザはヤクザだ
ある程度、ケンカ慣れしてるみてえだ。

ヤロウはマグの必死のヒッカキをかわし
背後に回ると、今度は髪を掴んで引きずり立たせると
手を振り上げ後ろからマグの横っ面にねらいを定めた。

気がついたマグは、頭を揺すって逃げてんだが
まあ、このチョーシじゃあ時間の問題だ、かわいそうによ。

ヤー公はマグの髪を再びねじり上げると
こぶし、カンカンにかためやがって・・

やばいよ、これって。

トーゼン俺だって助けたいさぁ。

でもさ、ヤー公相手じゃあ分が悪すぎる。

そりゃ、あんなチンケなヤクザには
負けやしねえよ俺たちだって。

でもさぁ、この辺のヤクザはモトを探れば
どうせみんな、あの桂木がらみに決まっている。

さっきもしゃべったけど・・

ピーターがあんたに話した桂木ってヤロウのこと。
関東一円で最大規模の族をまとめ上げる
桂木五郎ってうヤツがいてさ、そのヤロウのオヤジは

表向きはスーパーの経営者で運送会社の社長だが
その実は大手暴力団組織の大親分様々ってことなんだ。

新小岩って場所で、桂木に頭下げねえヤツが
まともにヤーさんやってられるわけがねえ。

さすがに分が悪い・・悔しいが・・・。

黙って通り過ぎるか、、ホンキで悔しいが・・。

と、

そんな時だ!

「おじさん、やめなよ女の子ぶつなんてさ」。

俺はあわてて声の方に振り向いた。

思ったとおり・・やっぱり家男だ、声の主は。

はっきり言ってビビったよぉ、俺はさぁ。

けど、興奮してるオヤジにはまったく聞こえてないようで

「このアマ、顔面ぐちゃぐちゃにすっからよぉ!」

って、オヤジの顔は不気味な笑顔でゆがんでいる。

「馬鹿野郎!」

って、マグがわめき返しツバをひっかけた

と、ツバは見事にクソオヤジの額に命中。

逆上した野郎は拳を握りしめて
マグの顔面に力一杯振り下ろした・・・。

あ〜あ、マグの顔面から飛び散る血!

と、・・えっ???

ヤロウの手が動いていねえんだ、ピクリとも・・。

なんてことだよぉ!

家男が背後からオヤジの振り上げた右手首を
しっかりと掴んでんだよ!!

一瞬、何が起こったのか理解できねえでいたクソ野郎は
ちょっと、あっけにとられたみたいだったが
すぐさまにことを理解すると
脂汗にギラつくエグいツラを家男に向けやがった。

荒れた息でヤロウは

「こらぁっ!ぶっ殺されてえのかっ、クソガキがあっ!」

顔面真っ赤で吠える。

が、捕まれた手は動かない・・・ピクリとも。

俺は知った、その時初めて・・・。

家男ってすんげえ馬鹿力だってのを・・・・・。

「おじさん、やめな・・・
女の子を殴っちゃあだめだ」。

家男のホント、静かな声だ。

それにしても、全く声が震えてねえ。

こんな時でも、、ホント静かな目だ・・・。

そんな家男の目が
ヤロウの両眼をまともにとらえた。

「なな、なんだあ、ここ、おおお、ここここ・・・」

野郎は怒りでベロがもつれたらしい

言葉になってねえよ。

野次馬がそれを聞いてドッと笑う。

が、それがオヤジの怒りに火をつけた。

血管が血走ったメン玉で
まばたきもしねえで家男を
にらみつけてやがる。

こうなりゃあ俺たちだって黙ってられるワケねえ。

このドチンピラがぁ、ただじゃおかねえぞって
ピーターと俺は家男に加勢しようと一歩前に出たら・・

と・・・おやぁ?って??・・って???

ピーターが俺の革ジャンの袖口を掴み
はやる俺を止めた。

やっと・・・俺たちは気がついたんだ。
クソヤー公の膝がガクガク震えてんだよ。

驚いたねぇ・・・なんでぇ?

ちっともワケわかんねえんだが
とにかくあのバカ、完璧にビビってんだよなぁ

てめえではどうしようもないくらいにさぁ!

クソヤロウは家男に右手を捕まれたまま
ピクリとも動けないでいる。

催眠術にかかったみてえにも見えやがる。

そのうちに・・・・・

ヤツは自分でも気がついてねえみてえな様子で
家男の視線をゆっくりとそらしはじめてさぁ
結局、ワナワナ震えながら下をうつむいちまった。

なんか・・叱られたチビガキみてえだ。

「て、てめえも・・ぶっ殺すぞ・・」

気を抜かれたような野郎、それでも家男に対して毒ずく。

「ねえ、やめなよ、おじさん・・・
成り行きでこうなっちまったんだろうけどさ

でも、おじさんは元々こんなこと出来るような
そんな悪党じゃあねえって・・俺にはわかんだよ」。

これだよねぇ。

ホント俺はまいっちまう、こんな時の家男には・・。

静かだ、家男は・・。

そして!かけらもビビってなんかいやしねえ。

そしてさぁ、家男の声が
ぐいぐいと周りにいる俺たちの心にも
グイグイ食い込んでくるんだ。

えっ?ありえない?って

冗談じゃあねえよ、ホント
おじさん、俺、ホンキで怒るぜ!

・・・まあ、でもさぁ
確かに信じられるわけねえよなあ、こんな話。

でもさぁ、俺はこんなコト
作り話で言えるほど頭よくねえよ。

ねえ、おじさん
信じてくれよ、俺はデマなんか言っちゃあいねえ。

んでもさぁ、実際あの時は俺だって
ソートーあっけにとられてたんだがね。

そうさぁ、一体何が起こってたんだか
さっぱりわかってなかったねえ。

突然

「俺を誰だと思ってんだあ、コラァ!」

息を吹き返したように毒ずくオヤジ。

家男はゆっくりと掴んでいた手を離した。

そしてオヤジの目をまともに見つめた。

オヤジはギクリ、ってちょうしでさぁ
今度ばかりはとことんビビっちまったようだ。

膝が限界に近いほど震えて始めてて・・
はた目の俺たちからもそれはよくわかった。

「ねっ、言ってんじゃんかよ、さっきからさ
おじさんはさぁ、もともと悪人なんかじゃあねえんだよ・・」

家男の声・・。

「聞いた風なことぬかしやがると刺し殺すぞ、こらあっ!」

ビビビリまくりの末、それでも逆上したオヤジが再びわめく。

「俺は、女の子、殴っちゃあダメだって言ってんだよ
男がすることじゃねえよ、そんなことは・・ちがうかい?」。

イチイチ区切って言い聞かせるように、ゆっくりそう言うと

・・・家男は微笑んだ。

ねえ、おじさん、、訊いてる?俺はねぇ・・・
こんな時の家男の笑顔にいつもしびれまくってんのよ。

今思い出しても、ホント泣けてくるくらいだ。

家男の笑顔・・・

当然、このバカヤロウだって
今度こそ完全に気を抜かれてしまったようだ。

そんで、ヤロウの膝は震えが止まって
今度はふにゃふにゃだ。

その時・・・

パトカーだ、、
サイレンがこちらに向かってくる。

「うわぁー!うわぁー!!」

ヤロウが突然!叫び始めた。

って、俺はヤロウは気が狂ったんだと思ったね。

ワナワナする膝頭でゼンマイ仕掛けみてえに
たどたどしく回れ右!

ヤロウは俺たちに中年太りの背中を見せると
その辺にあった自転車を気散らしながら
一目さんで逃げ始めた。

自転車のどこかに引っかけたんだろうか
ヤロウの縦縞ズボンの太股あたりが破れ
血が流れている。

しかし、お構いなしって感じでさぁ

ヤロウは全力疾走して脇に小道を見つけると
ひっくり返りそうになりながらくるりと回って
ホンキの這々の体で逃げ去って行った。

・・・

なんのことはない、パトカーは
俺たち目当てで走ってたワケじゃあなかった。

いつのまにやらポリ車のサイレンはズンズン遠ざかり

やがて俺たちの耳から消えていった。

「よっぽど怖かったんだろうな、ヤロウは・・・」

安堵した様子でピーターが
自分のリーゼントを掻き上げた。

安心した時に見せるコイツのクセだ。

やっぱし、ピーターも
すっかりあっけにとられた様子でさぁ
やっと一安心、んで思わずつぶやいたんだろうね。

俺かい?

その時?

全く、ワケがわからなくって
口をぽかーんと開けていたんだが
オヤジが去って初めて我に返り家男を見つめた。

いつも通りの家男だ・・

しかし、どうして・・・
俺にはやっぱり全く理解できなかったが

ふと
そうだ、すこしずつ理解でき始めた。

実はヤロウは、見ての通り
家男のことが恐ろしくって仕方がなかったんだ。

きっと一目さんで逃げたくって仕方がなかったんだろうが
ヤー公的なプライドでやっぱりそれが出来ない。

だから都合良く来やがったパトカーのサイレンを
メ一杯利用して逃げたんだ。

なんでか?って

おじさんもちょっと鈍いねぇ、ハハ。

後で周辺(マワリ)に言い訳できるようにさぁ。

じゃあ、なんで家男が
そんなに恐ろしかったんだろうか?って

そこんとこがやっぱり俺にはわかんねんだよね。

ツラかい?家男の?

う〜ん、どちらかといやあヤサ男だよ。

とにかくさぁ
コトが収まってみると
周りはもう人影もなく静まりかえっている。

家男はマグに近寄ると優しく手を取って
いたわるようにマグを助け起こそうとした

そん時にさ

「気安くさわんじゃあねえよ、このガキぃ!」

マグが金切り声をあげた。

・・・

「大丈夫かい?」

それでも家男は微笑んでいる。

「ガキがエラそうにのさばり出やっがって、こらあ!」

また、わめくマグ。

口の血は止まったみてえだ。

「てめえ、このバイタがよぉ、、、
助けてもらっときながらなんだよ、それはぁ!」

ピーターが怒鳴った。

すかさずマグがわめくき返す。

「助けただとう?こらあ!

誰も頼んじゃあいねえんだよぉ
このせっかい野郎がぁっ!」

全く頭に来た様子のピーターは

「家男よ、もうこんなバカほっといて行こうぜ」・・と。

俺も同感だった。

それでも、家男はマグを見つめている。

「家男、行こうぜ」。

俺もそう言って・・・

と、、、

なんだぁ?

泣いている、、?

家男がぁ、、?

。。。

家男の瞳はみるみる間に、メ一杯潤むと

・・・

涙がほほを伝って流れ始めた・・。

思わずビクリとして、息をのむマグ。

「なんだよ〜」

マグの声が震え始めた。

「なんだよ〜、このバカヤロウ・・
やりてえのかよ〜・・・

なあ、やりてえだけなんだろうが?」

マグはオロオロとぐずり始めた。

「男なんて、みんなそんなんだ・・・
イヌコロとかわりゃあしねえんだよぉ〜」。

マグも泣いてるのか?

声が震えてる。

「でもさぁ・・ニイちゃん、いいオトコだよねえ〜」。

マグの目から涙がポロポロこぼれ始めた。

突然、マグは家男の前に来て自分のスカートをまくると

「ほらよ、やらしてやるよ・・・好きなだけやんなよ・・」

今度はマグの両目からは涙が溢れ始めた。

化粧が溶けて涙が真っ黒だ。

家男はマグの方に歩み寄り
両手を静かにマグ両頬にあてた。

やるのか?

俺はさぁ、、やっぱ一瞬、そう思ったね。

ホント、俺もソートーの馬鹿野郎さね。

家男は片膝をかがめ自分の身長をマグに合わせると
少し首をかしげ、驚いたことにさぁ・・自分の唇を
青あざと血でデロデロ光るマグの口にゆっくりと持っていき

いかにも愛おしそうな様子で優しくキッスした。

思わずマグが目をつぶる。

俺たちはマグの“女の子”の顔を初めて見た。

驚かされたね〜、へぇ〜・・

テれてやがるぜ、あのマグがさぁ。

でもさ、再びマグ両目からは大粒の涙そして涙・・・

マグはもう本泣きでヒーヒー泣きだしてしまった・・・。

「もう、つまねえことすんなよな、カワイコちゃんよぉ」。

家男が微笑みながら・・

マグの頬を優しくなでて静かに言った。

両肩を揺すりながら泣きじゃくるマグ。

「馬鹿野郎、てめえなあ・・
この口であたしが何やってるか知ってんのかよ〜

ふざけんじゃあねえよ・・・この野郎ぉ〜
てめえだって、キンタマついてんだろうがよぉ〜、こらあ・・・」

マグはまだ続けてなんか言おうとしたが
後は嗚咽と涙で殆どまともな言葉にはならなかった。

えっ?どうなったかって?その後・・・

待ってろよぉ、今話してやっからよぉ。

マグはそれでも「馬鹿野郎、馬鹿野郎」と
小声で繰り返しながら泣きじゃくりまくり
フラフラしながら俺たちの前から
足を引きずるようにして去ってき、姿が消える。

それでも、マグのワーワー泣く声は未だ
人通りがなくなったフラワー商店街に響き渡っていた。

・・・

気がついてみると空はもうすっかり星空だ。

ハラも減ってきたしねえ。

そろそろ帰ろうよ・・って時

と、突然・・ツレの中坊一人が家男の足下にガバッ!って跪いた。

なんだぁ・・?こいつはぁ?

コイツはさっきのマグみたいにオイオイ泣きながら

家男の膝にむしゃぶりついている。

「家男さんっ!、あんたっ本当の男っすよ!

俺はあんたにずっとついてく

俺をあんたの舎弟にしてくれえっ!」

っと、まあこんなんで・・驚かされたわけだ。

しかし、この中坊の気持ちは
俺たちにも痛いほどわかる。

ついでだが、この中坊は
名前を羽根洋治っていって
俺たちの間ではの「ヨーハネ」って呼ばれている。

名前と名字ひっくり返して短くしたんだよね、ハハハ。

ヤロウは、タッパはそれほどでもないし
ガタイもしれてはいるんだが、根性は筋金入りだ。

もちろん、俺みてえなチビじゃあないけどさぁ
って、おじさん余計なこと言わせんなって、ハハハ。

そしてさぁ
この日からヨーハネは「家男親衛隊隊長」になっちまった。

どうだい、おじさんよぉ
家男ってこんなヤツなんだ。

でもさぁって、おじさんはどう思う?

家男ってやっぱケンカが強いんだろうか?

ほんでささぁこういうの・・
ケンカって言うのかい?

なあ、おじさんよお・・・。



05.「マグ」後編

おじさん、ごめんよっ。
実はさぁ、昨日の晩にすげえコトがあってさぁ

どうしても忘れねえうちに話しとこうと思って。

すんません、ホントばたばたさせちゃって。

「だからおおめえは、おっちょこちょいってんだ」

・・ナンテ

またピーターに言われちゃうんだろうけどさぁ。

えっ? 俺の名前は?って
安藤君なんて!やめてくださいよぉ。
アンドレで十分っすよ。

さてねえ、実はさぁって、え〜とぉ・・・。
俺ってホント、バカだよね、ハハ。

そうそう・・・ 実がさぁ、昨日の夕方頃
いつものメンツでつるんでたんすっよ、樹里案ってサ店でさぁ。

えっ?ピーターから聞いてるって?樹里案のこと・・

じゃあ、話は早えぇやぁ。
そ、いつものように俺たちはとぐろ巻いてたんだ、樹里案でさぁ。
っと、突然、、 ヨーハネの野郎が血相変えて店に飛び込んで来やがった。

それがさあ、あんまりすげぇ顔してやがんで
俺は思わず笑いながら言っちまった。
「何だよヨーハネ、ハラでも痛えのか?」」ってさぁ。

「冗談言ってる場合じゃあないっすよ、アンドレさんよぉ!」

ってヨーハネの野郎
息が上がっちまってて、まだ用件を話せねえでいる。

「いいから、落ちついて話せよ」 ピーターが苦笑いしながら言った。

「マグっすよお、今ぁ見るからにチンピラって野郎どもに
髪の毛ひっつかまれって、河川敷の方につれてかれてって・・」

ヨーハネがあえぎながらここまでしゃべると

「それから・・どうしたんだ」

家男がちょっと、緊張した顔で訊いた。

「詳しくはわかんねぇすが
ありゃあ、明らかに尋常な様子じゃあなかった。
俺、どうしようかと思ったんすが
あの人数じゃあちょっとヤバイってんで
まずは、家男さんに報告しなくちゃって
一目散に飛んできたんすよお」

ヨーハネはここまで言うと
俺の前に置いてあった水をひっつかむと
のどを鳴らして旨そうに一気に飲み干しやがった。

「あー、うめぇ」って・・舌鼓を打ってから
一息つくとヨーハネは

「家男さん、どうしますっか?」

と、探るような顔して家男に訊いた。

「バイク用意しろ、ヨーハネ」

家男がすかさず言うと「やっぱ、行くんすね」

ヨーハネはシンから嬉しそうに答えた。

「あたりめえだ」 家男はニコリともせずにそう答えた。

しばらくして、ヨーハネがハーレー1200ccを転がしてきた。
いつ見てもすげえバイクだ。
まさに“怪物”ってヤツだね。

何で、ヨーハネがこんなバケモン持ってるかって言うと
実はヨーハネの家は魚屋で、大金持ちなんだ。
もちろん、未だ中坊のヨーハネに免許なんかあるわけがない。
5歳上の兄貴のをこっそり借りてきやがったんだが
そんでも、ヨーハネのドライビングテクはてえしたもんだ。
下手な族なんかあっという間にまかれちまう。

ハラに響くハーレーのエンジン音。
俺もほしいよね、ホント。

ともかくさぁ
俺たちも中古のCBやらカワサキやらにまたがって
現場に直行ということになった。 
家男はヨーハネの後ろにまたがってやがる。

えっ?免許?家男の?
たぶんあると思うよ、でも家男がバイクに乗ってるのって
あんまし見たことねえけど・・。

ん、でも以前見た時にやぁ
ま、そこそ器用に乗り回してたけどね。

うん、単車乗れねえってコトはないはずだ。
でも、俺たちでも自分のマシン持ってるけど
家男はもってねえ、やっぱ貧乏ってのもあるんだろうねぇ。

おっと、そんなこたぁいいんだ。

そんな風に俺たちは現場に向かった。

季節は冬なのに台風前みてえなイヤな色の曇り空だ。
おまえけに、冷てえ風がピューピュー吹いてやがる。
そのうちに雨も降り出しそうだった。

現場が見えてくると同時に
マグの金切り声が俺たちの耳に入ってきた。

「この野郎、さわんじゃあねえっ!ぶっ殺すぞぉっ」 って。

見ると、マグは、橋の下にある河川敷のフェンスに
まるでイヌころのように

いやあ、もっとヒデえなあ、、

痩せてガリガリの手足を
針金でがんじがらめに縛り付けられてやがる。

家男はハーレーのケツから飛び降りると
砂埃を立てながら急な土手を滑り降りている。

バイクの音に気がついたチンピラどもが
一斉にこちらを振り向いた。

ヤベえ!相手は30人ぐらい居るんじゃあねえだろうか?
さすがの俺も、ちょっとビビっちまった。

「家男さん、俺ちょっと仲間に招集かけてきますっ!」

ヨーハネはそう言うと再びバイクにまたがり
砂埃とゴミを舞いあげながら飛んでっちまった。

マグはすでに口から血を出している。
冬用の、女物のジャッケが地面に踏みにじられて転がっている。

マグは紫のセーターを着てるが
チンピラどもにこづき回されたのだろう
あちらこちらに醜い汚れが付いていた。

膝頭がすり切れて血が流れ
網タイツがボロボロに破かれている。
靴はもう履いていないから
白い靴下がグチャグチャだぁ。
その上、スカートまで脱がされて
パンツまでが引き破られて
太股にその残骸がへばりついてやがるぜぇ。

「てめえらぁ、なにしてんだぁ!」

家男が吠えた。

ドすごい声だぁ!

いやぁしかし、びっくり!
俺はこんな恐ろしい家男を初めて見たぜぇ。

その時、俺たちから見える
家男の、背中の十字架が光った、確かにって
おじさん、ここでちょっと説明するけど
家男はいつも、って俺たちもそうなんだけどさぁ。

ダブルのジーンズに好みのトレーナーを着て
その上に革ジャンひっかけてるんだけど
そう、俺のとおんなじタイプの革ジャンさぁ。
でも、背中の刺繍はホントそれぞれだよね。

見てごらんよ、俺のはさぁ。

もちろん、真っ赤なボクシンググローブに
xにクロスする稲妻と「Beat it!」の文字。
かっけぇだろう? んで、家男のなんだけど
まずは金色の十字架がど真ん中に縫いつけてあって
その両側には天使が飛んでやがる。
下には一個のシャレコウベが転がり
上には明るい青色雲に包まれた
「love」って文字が縫い込んである。

これがねえ、でも見事な刺繍なんだ。

ほとんど黒って感じの茶色の革ジャンに
よくもここまですんげえのを縫いつけたもんだよ。

何処で買ったんだって訊いたんだが
なんでも死んだ親父さんの形見で
元々、大工だった親父さんは
若いころ、戦争に引っ張り出されて
サイパンとか言う南の島に行かされてさぁ。
命を助けたアメリカの兵隊から
そのお礼に貰ったとか訊いた。

なんでもさぁ・・てめえが撃った弾にあたった
死にかけの年若い敵兵を担いでってさぁ。
なんとさぁ、真夜中に
軍のバイクを無断でブッとばして敵陣に乗り込み
その瀕死の若いアメリカ兄ちゃんを
敵の医者に預けてきたってんだから、驚くよ。

でもさぁ、それがばれて、敵をかばったってんで
軍法会議とやらにかけられちまったらしいんだが だがよぉ

「死にかけてる人間を切り捨てるのが武士道なんですか!」

って、いやあ、おかげで、、
ぶん殴られたことぶん殴られたこと。

明日銃殺ってコトになったらしいんだが

なんと、その夜に逆襲してきた敵軍に囲まれて
何故か家男の父ちゃんだけが生け捕りにされたって・・。

そんなうちに戦争が終わったって
牢屋ん中で家男の父ちゃんはそれを知った。

そん時にさぁ、命を救われたってアメリカの兄ちゃんが
どうしてもってコトで自分の宝物だった革ジャンを
家男の父ちゃんにプレゼントしたってことっす。

だから、そんじょそこらじゃあ
手に入んないっすよ、家男の革ジャンは。

でもさぁ、ハハ、話聞いてて俺思ったんすけど
ナンカ家男に似てるよ、やっぱし親子だよねぇ・・。

おっと、話の続きだ。

そう、家男の背中の十字架が
確かに、一瞬光ったように俺たちには見えた。

ガタイのでかいリーダー格っぽい野郎が
ちらりと家男に視線をおくると、ドスのきいた声で

「にいちゃん、けがするぜぇ・・」と一言

そして、てめえの仲間の方を振り向くと

「おうっ、てめえらぁ
このバイタの汚ねえマンコ、ぐちゃぐちゃにしてやれぇ!
ゲームぅ始めろぉ!」

ってバカ声で吠えやがった。

かけ声と共に、チンピラどもは足下にある石ころ拾い始めて
なんと、縛られて動けねえマグめがけて思い切りぶつけ始めたんだ。

やべえよ、死んじまうよ、、マジで。
俺は思った、どうしようかって・・・そん時!

「てめえらぁっ!やめろっ!!」

って、家男が飛び出しマグの体に被さった。

一瞬あっけにとられたチンピラどもは
間抜けな調子でお互いの顔を見合わせ始めた。

リーダー格がドスのきいた声で

「にいちゃん、じゃまするとホントケガするぞぉ・・・
なあ、ケガだけじゃあすまねえかもしれねえぞ」

不気味にひきつりながらニヤついていやがる。

「てめら、遠慮するな、やれっ」

奴らが再び石ころを投げ始めた。

石ころがどんどん家男に命中し

バツッ、バツッといやな音が家男の背中から聞こえてくる。

「余計なこと、すんなよぉっ!!!」

マグがわめく。

「てめえはだまってろ」

家男がつぶやいた。

実はさぁ、おじさん知ってる?
革ジャンってこう見えてもかなり強いんだよね。
もちろん痛いさ、石ころぶつけられてんだからさぁ。
でも家男のヤツ、前のジッパーあけて
両手で広げながら背中にタメ作ってるから
ダメージは見た目よりは少ないだろうなぁ。

さすがに家男だぁ。
俺とピーターは、正直な話相手の人数にビビってたし
早くヨーハネと兵隊達が来ないかって、ジリジリじれてた。

「おい、誰かこのガキどかせろ!」

リーダー格は苛ついてるようだ。

若いのが3人家男ににじり寄る。
振り向く家男。

3人はビビって思わず、一歩引いた。

「てめえ、が・・家男かぁ」

チンピラの一人がつぶやいた。

なるほど、もうこのころ家男の名前とツラは
新小岩では結構売れてたらしい。

3人とも相当ビビってやがる。

「っとに、根性なしばかりだ!」

リーダー格はそう吐き捨てると
家男に向かって話し始めた。

「なあ、にいちゃん、お前の根性は認めるけどよ
この女は女でどうしようもない性悪なんだよ。
おめえらも、すでに知ってるだろうが
ここ新小岩でショウバイする時は桂木さんに
挨拶抜きじゃあすまされねえのよ」

やっぱり、桂木のヤツらだ!俺は思った。

「このスケはなぁ、そんな大切なルール破って
体売ってやがった・・・なあに桂木さんは寛大なお方だ
なんども注意してたんだよ、このアマになぁ」

「桂木のキンタマおやじがよぉ!クソくらえってんだぁ」

家男の下からマグがまた喚いた。

リーダ格はいかにもむかついた様子で

「なあ、こんなバイタ、助けたって何の得にもなんえぞ。
なあ、ケガするだけソンってもんじゃあねえのか?
にいちゃんよぉ。」

ヤロウは余裕で家男の顔をのぞき込む。

家男はそれでも、マグの前から避けようとしない。

ジリジリしたリーダー格が大声で喚いた。

「おいっ!つづき始めろぉ!!」

しかし・・・なんだぁ・・・?
どいつもこいつも、ビビって投げやしねえ。

「この、根性なしがぁ!」

ヤロウは顔を引きつらせ
一番近くにいたヤツに思いきりビンタ食らわせると
そのヤロウの手にあった大きめの石をひっつかみ
力いっぱい家男めがけて投げつけた。

「あぶねえ、逃げろ!家男ぉ!!」

ピーターが叫ぶ。

ゴヅッ・・ いやな音だ。

石は家男の額に命中した。

家男は一瞬・・少しふらついたが
頭を振ってすぐに気を取り直した。

血がダラダラ流れ始める、家男の額から・・。

俺はキれたね、この時にぃ。

「てっめえ、このヤロウ・・ぶっ殺してやる!」

俺はそう吐き捨てるとヤロウにつかみかかろうとした

と、、その時

「やめろ、アンドレ・・」

家男が俺を制した。

「この人達は、俺を殺そうナンテしやしねえ」

不思議なくらいに落ち着いた家男の声に
俺は一瞬で萎えた。

リーダー格はちょっと目をシバシバさせながら
なんとなくすまなさそうな調子で口を開き・・

「なあ、にいちゃん・・気持ちは分かるが
どこにでも掟ってのがあるんだよ・・

ホント、お前は根性あるみてえだから
俺たちはこれ以上余計なことはしたくねえ・・
なあ、おとなしくどいてくれねえかぁ」

リーダー格が説得じみたことを言い終わらないうちに・・

「掟だとう・・・」

家男の目が鋭く光った。

「掟だとう、このヤロウどもがぁ」

繰り返す家男。

その時、雷が・・
とてつもなく大きな音を立てて夜空に煌めくと

・・どこかに落雷したようだ・・・。

地面が揺れ、轟音が
しばらく引きずるように響き渡る・・・。

全員が一斉に背筋が縮み上がり、ざわめいた。
しかし、家男はそれにすら気がつかない様子で
両の目を獣みたいにぎらつかせながら怒っている。

「ふざけんじゃあねえぞぉ!!」

家男もすでに爆発していた!
皆、静まりかえっている。

さっきの雷と、家男のあまりのバカ声に
そこにいる全員があっけにとられてしまっているのんだ。

家男は自分の額にちょっとふれると
「ツッ」と言い、左手の甲で血をぬぐった。

リーゼントが少し崩れて
前髪が数本、目のところでブラブラたれている。
しばらく立って、やっと家男が口を再度開いた。

「掟って、こんな女の子よってたかっていじめやがってよぉ・・
てめえらぁ人間としての掟すら守れないヤツらに
なんの掟を語る資格があんだよぉ!」

再び、あまりにもドでかい声で家男はそう言うと
チンピラどもを一人一人と・・ぐるり見回し始めた。

あっけにとられて一歩引く、みんながみんな・・・。

どいつもこいつも・・顔面真っ青だぁ。

雨がポツポツ、きはじめやがった。

突然 「やめて〜っ、この人に手ぇ出さないで〜」

マグがギャーギャー泣き喚めき始めた。
「お願いだから、お願いだからぁ」って
わあわあ泣いてやがる。

ええっ? やったぜぇ!!!

一筋三筋、ライトが夜空に輝くと・・

その時だ!
バイクの爆音が俺たちめがけて近づいてくる。

やったぁ!ツレ達だぁ!
俺はマジで歓喜したねぇ!!
バイクが一台二大と続々集まってきて
ヘッドライトがギラギラとまぶしく光ってる。

「家男さ〜ん、大丈夫っすかあ・・
遅れてスンマセーンッ!」

ヨーハネの声だ。

続々集まる革ジャンひっかけた仲間達・・・。

結局、俺たちの仲間は50人ほどになっっちまった。

チンピラども俺たちに囲まれてカンペキに形勢逆転。
ビビりまくってやがる。
バカドモは俺たちの人数にオロオロしてやがる。

空ぶかしするツレ達の爆音に
チンピラどもはどうしようもないくらいオロオロと
おびえ始めたのが俺にも手に取るように分かる。

「家男、どうするよぉ・・
ちょっと“キョーイク”してやっかぁ?こいつらぁ・・」

ピーターが言った。

「つまんねえこと言うんじゃあねえよピーター」

家男は答え、そしてリーダー格の方に向き直ると
家男はしゃべり始めた、、、そのヤロウにだ。

「なあ、おじさん・・ 俺たちは手荒なことはしやしねえ・・。
だから、もうマグを許してやってくれねえかい?」

リーダー格がビビっているのは明白だ。

額にジリジリとアブラアセ流してやがる。

「まあ、しかしなあ、にいちゃんよ・・・
ハッキリ言って、このままじゃあ
俺たちのメンツってのががたたねえのよ。
なあ、このまま手ぶらで帰って・・・」

ヤロウはビクリとふるえた。

「桂木さんにナンテ言えるんだい?」

このバカ・・ビビってやがる・・
桂木に対してもヤロウはどうしようもなくビビってやがる。

「すまねえが、それでもマグはわたせねぇ・・
あきらめんっだな、おじさんよぉ・・」

家男がニコリともせずに言った。

「てってめえら、どうなっても知らねえぞぉ」

怯えながらも逆上したふりで威嚇するリーダー格は
捨てぜりふを吐き捨てると

「てめえら、今日はひきあげるぞぉ!」

と仲間のチンピラどもに喚いた・・・と・・・
20人以上がなぜか動こうとしない。

「てめえらぁ!耳がくさってやがんのかぁ!!」

大あわてで喚き散らすヤロウ。

それでも、動かない・・・。

「どいつもこいつも地獄に行きやがれ!!!」

ヤロウは喚き散らすと、7〜8人の仲間を引き連れ
後ろも振り返らず早足で遠ざかっていった。

残ったヤツら・・・20人ほどか?

なんだぁ、こいつらぁ・・・ って俺は思ったね、でさぁ
よく見るとなんのことはねえ、ヤツらは俺たちと
ほとんど年もちがわねえようなツラばかりだ。

「なんだぁてめえらぁ、やんのかぁ!」

ヨーハネが一歩詰めより吠える、、
と一人が慌てて

「違うんすよぉ・・・」と、おずおず話し始めた。

「惚れちまったんすよ・・・みんな家男さんに・・・」

ヤツは言った。 「なんだぁ?」
ピーターが間抜けな声を出す。

やつらは一斉に家男に駆け寄ると ぞろぞろと跪き始めた。

「家男親分、俺たちを舎弟にしてください!」

先頭のヤツがでかい声で言った。

家男はちょっと慌ててリーゼントを右手で直すと
額の血を確認しながら、、

額の血は止まったようだ。

口を開いた・・。

「おいおい、みんな立ってくれよ。
でも、親分ってなんなんだぁ?
俺はヤクザになんかなりたくねえんだよぉ」。

家男がやっと微笑んだ、例の笑顔だ。

「なあ、みんな聞いてくれ・・・
ヨシ!じゃあ、わかったよぉ
じゃあ今日から俺たちは友達だ。
だから、これからは俺のことちゃんと
家男ってよんでくれ。

なあ、みんなダチなんだからよぉ。
わかったか、みんなぁ。
しかしなあ、友達がふえるってのはぁ
ホント、うれしいことだよなぁ」

ヤツらは顔を上げると
互いの顔を見合わせては笑い会っている。

「ハイ!」皆が大きな声で、多少不揃いに答えた。

みんな・・笑顔笑顔・・・。
バイクのヘッドライトに照らし出された家男の横顔を
ヨーハネが目を細めて眩しそうに見てる。
俺はそんなヨーハネをつついてやった
ヤロウはよぉ・・俺の方に振り向くと

「やっぱ、男っすねぇ家男さんは」

って、ため息混じりだよ、このガキィ。

さてと、マグだ。

針金を解かれてやっと自由の身になったマグは
さすがに、さっきまでスッポンポンにされてた下半身は
グチャグチャにされたてめえのジャッケで隠していたが
よろよろと家男のところに寄ってきた・・。

その時、、俺たちはマグが倒れたと思った。

「大丈夫かぁ、マグ?」

家男が心配そうにかがむ。

見ると・・マグはね、、、

家男の足首にしがみついて
ちっちゃな女の子みたいになっちゃってさぁ
震えながらめそめそ泣いてんだよな、これが。

「大丈夫だ、マグ・・・な、もう大丈夫だ・・
怖えぇことはもうなにもない・・マグ、心配すんな」

家男が優しくマグの頭をなでた。

突然、マグは家男を見上げと限界まで目を見開いて・・

「家男様・・・・」

マグは家男を見つめながら言った。

「なんだぁ〜?」

素っ頓狂に家男が答える。

「家男様、私は一生あなた様についてきます・・・。
お願いします、私をあなた様の奴隷にしてください・・・」

マグは涙をいっぱいタメながら
静かな声で言った。

一瞬、間が空き 家男が大きくため息をついた。

「おイヤですか・・・?」

マグの声が悲しそうに震えている。

家男はマグを抱き起こすと・・・

「よし、わかったマグ!じゃあ、俺についてこい
しかし、俺は奴隷なんかいらねえよぉ」

笑顔の家男。

マグは返事も出来ずわなわなと膝から崩れ落ちると
家男の膝に両手で力一杯しがみつき
再び、めそめそ泣き始めた。

「マグ、歩けねえよぉ〜」
家男は苦笑いしながらそう言うと
再びマグを抱え起こして両目でマグを見つめると

「ただなぁ、家男“様”ってのだけはやめてくれよ。
恥ずかしくって
みんなの前に顔向けできねえじゃねえかぁ
なあ、マグ・・」。

家男は楽しそうに笑いながらそう言った。

マグは涙くちゃくちゃで それでもやっと微笑んだ。

って、今日はここまで。

あ〜、のどかわいたぁ〜。
ホント、生まれて初めてじゃあねえのかなぁ
こんなにしゃべったの・・って、ハハハ
ジョーダンっすよぉ。

えっ?ミックスジュースで良いかって?
もち! ただし、シロップ抜きね。

でもさ、実は続きがあんだよなぁって
でも今日はもう限界だよ・・・。

また次ね。

えっ? じゃあ次の金曜日は?ってぇ。

いいよ、予定あけとく。

んじゃあ、いただきま〜す。

続く・・・

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