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>第一章<

「プロローグ」

全くもって、この昨今
耳にするのもイヤなニュースが続きました。

その際たるものとして、戦争。

結局、罪無き人々に対する殺戮は繰り返され
その見返りとして
恥知らずの悪党どもは毎晩
高いびきで垂涎の眠りをむさぼっている。

虐殺を実行し推進した卑劣漢どもが
正義を語り富を享受し
それに反対し、平和を唱える者が悪人扱いされる。

こんな、やりきれない矛盾の数々。

しかし、こんな時だからこそ
我々おとな(オッサン)が頑張らなくてはならない。

暗いニュースが多すぎるからこそ
う〜んと明るいストーリー展開で
皆様の心を一瞬間でもほの明るくしたい。

親愛なる読者の方々の精神状態を
ほんの少々でも明るい方向に持って行けたら

そんなささやかなる願望を我が胸に秘めながら
この物語を展開していきたいと思います。

読み始めてまもなく
あるいは慧眼なる読者の方々の中には
この物語の“元ネタ”を早々と感知し

ああ、なるほどね

ナンテ

そんな、簡素なる感想(^_^)を
我が作品より得るのかもしれない。

そう、もう人殺しや
手に汗握るサスペンスなんて沢山だ。

現実的に戦争なんてもの
何一つ心が躍るワケじゃあない。

張り付いたような義務感と
遂行される殺戮の数々。

人間を引き裂くことに慣れきってしまって
正常な感覚が決定的に麻痺した人間達によって
行われる虐殺、戦争。

不条理、絶望、憎悪、利己主義。

ほとぼりがさめかけた頃

世界中に蔓延る汚らわしい死の商人達が
罪無き人々の骸(むくろ)に群がり
死肉を喰い散らしながら肥え太る。

そんな馬鹿馬鹿しい“現実”を舞台にした物語や
戦場の英雄譚なんてクソくらえだ。

過去の英雄は、皆
歴史の中に死に絶えた。

そんな筆者の
個人的見解をきっかけに始められるこの物語は
筆者である私の、誠に自分勝手な都合により
独白文形式で進めていこうと思っています。

そう、太宰や
あるいはドストエフスキーやらの大文豪達が
この形式によって様々な名作を為し
大いなる感動を我々に与えてくれました。

私もそれに習(なら)い
そう、謙虚な気持ちで倣(なら)い
その方式で文章を執筆していきますが

けして「我こそが現代における大文豪なるぞ」
などという類(たぐい)のアホらしい自負心などは
これっぽっちも持ち合わせていませんので
どうぞ、ご了承下さい。

もう一つ横着な理由として
この独白文形式というもの

文章力がない人間でも
意外に、そこそこに書けてしまう。

結局、手紙が
たとえ拙い文章力によって綴られていたとしても
独特の説得力を持ちうるのは

“語りかけ”る方式の文章が自ずから醸し出す
一種独特の臨終感によるものなのでしょう。

物語を始める前に
舞台設定を簡単にご説明させていただきます。

時は1977年
いわゆるバブル景気の真っ盛り。
経済は鰻登りに登り

モノはある、とにかく。

しかし、心がまったく伴っていなかった時代。

結果、吹きだまりのような精神構造が
大多数の、日本人の内部に構築され

巷に徘徊する、拝金主義。

要するに勝てば良いんだ、そんな風潮。

中身が無垢で純粋なだけに
その影響を真っ正面から受けざるを得ない
当時のティーンエイジャー達。

そんなころの
東京も外れの外れ
葛飾区の新小岩という場所に屯してた
当時20才の、チンピラの独白により
この物語は始まります。

元々この新小岩界隈は戦後に発展し始めた
日本全国のどこにでもありそうな
極めて在り来たりの新興住宅地で
史跡名所的なモノはほとんど何もない。

駅前には、これまた日本中のどこにでも見かける
極めて在り来たりで面白みのない商店街が広がり
日が暮れ始めると、裏路地にある
いかにも怪しげな飲み屋がそこここと
明かりをともし始める。

そんな場所で屯するチンピラ悪ガキの類(たぐい)なんて
はっきり言ってしまえば都心では遊べない輩(やから)。

大半は貧乏人の小せがれ。

当時のチンピラ言葉で言う

所詮は中央デビューも出来ない根性ナし

ということになるのですが・・・

ともあれ
それでは、物語の始まり始まり。


01.「ピーター」

ウッス、俺ピーターってんだけど
間抜けな理由でさぁ、俺のあだ名なんて。

小学校の時、なんでも
テレビのピーターに似てるってんで
馬鹿な同級生からからそう呼ばれ始めた。

勿論、ガキの頃はイヤだったよ。

そんで、最初は泣かされてばかり。

そのうちに根性ついてきて
気がついてみれば仲間と単車コロがしてるってワケ。

今じゃあ、このあだ名も嫌いじゃあない。

ツレに「おい、ピーター!」なんて呼ばれると
なんかアメリカ人みたいで、うん、悪かあない。

革ジャンと皮ジーンズでピチピチに決めて
頭、グリスでコテコテに盛り不げりゃあ

この辺では珍しくもないような
いっちょ前のチンピラがハイ出来不がり。

仲間とツルんでゲーセンやらパブふらついて
こんなカッコで肩で風邪切ってると
カタギのニーちゃんは結構びびってるしさ
まあ、悪い気分はしないさ。

でもね・・・

え、家男?のこと?

知ってんの?へ〜。

それを話そうと思ってたんだ、実は今からさ。

俺かい?

うん、大好きだよ家男のこと。

なんでって聞かれると、困んだよな〜。

うん、不細工じゃあないよ絶対。

でもさ、ハンサムって程でもない。

ちょっと、ハナがでかいし(^_^)。

喧嘩?

強いと思うよ。

だって、あいつんとこはオヤジが大工で
ガキの頃からオヤジを手伝ってたみたいだし。

たっぱ(身長)はそれほどでもないけど
ま、チビじゃあないな。

でも、ヤッパ筋肉はスゲエ。

一緒に銭湯入った時見たんだけど
ヤッパ、スゲエいい体してた。

もちろん、俺はホモじゃあないけど
でも、家男はやっぱりカッコいいヤツだと
俺は思うね、ゼッタイ。

目つきがちょっとジェームス・ディーンに似てる。

そうだな、そんで
あんなイイヤツは他にいない。

なにが?って

じゃ、話してやるからよ家男のこと。

そのかわり、いっぱい奢れよな。

一杯じゃあないぜ、いっぱいだ、ハハハ。

俺が好きなのはバッドワイザー。

「お〜い、にいさん、こっちこっち」・・・

さて、と・・・

俺と家男のつき合いは
ま、そんなに古いってワケじゃあない。

見ての通り、俺はこんなチンピラさ。

この町で
この手の同類が集まるとツルんでは
ロクでもねえことばかりしてるのさ。

中二の時にサ店でタバコデビューしてから
酒、単車、ゾク、ディスコ、女の子なんてパターン
ここいらじゃあ珍しくもない。

いつものようにいつもの場所で
俺たちみたいなクソガキばかりが集まって
けっこう、ピリピリしてた時期だったと思う。

他のグループと
なわばり争いはあったりしてたから。

そんな時に、聞いたんだ

家男ってヤツのうわさを。

なんか、どっからかフラっと現れやがって
その上、最近このへんで勢力伸ばして
ぶいぶい言わせているヤツがいるって噂だ。

当然、俺たちは面白くない

じゃあ、ちょと“アイサツ”しとこうぜって

ナカマに招集かけてから繰り出した。

「家男」って妙な名前のガキは
どこのどいつだっ!て

あちらこちらに脅しかけたりしてね。

ところがどうだ

思っていたより、あって間に見つかった。

って、ある時
突然そこにいたんだよ、あいつが。

きたねえ飲み屋の、半地下ガレージの
ゴミ置き場みたいな所に。

それも一人でポツンとさ。
当然、俺は家男とは初対面だったけど
勘で間違いなくコイツだってわかったんだ。

え?どうしてかって?

言われてみりゃぁ不思議なんだが
でも、そうだったからそうだ
と、しか言いようがない。

ヤツは
俺たちとおんなじ革ジャン、リーゼント
ガタイもそれほどじゃあない。

なんだよこいつって

俺たちとおんなじ
まったく標準的な不良じゃねえか、ってところで

こちらもナめられちゃあいけねえってんで
気合い入れてまずは、吠えた!!!

「おう!てめえが家男かぁ!!!」

って調子でね。

ガン飛ばしてきたら、そのままイこうって
決めてたんだけどね、最初は。

が、その矢先にさ

「やあ」って・・・

こちらに向かって微笑(わら)いやがんだよ。

そう、家男がさ。

コブシ振り不げてるこの俺にだぜ。

ニコニコ笑ってんだよね〜アイツ。

えっ?て、感じで完全に出鼻くじかれて。

でもさ、後に引けないだろ
俺は俺でツレの手前もあるわけだし。

こちらも、も一回脅しかけたよ。

一歩詰め寄って胸ぐらつかむと

「この野郎、なめてんのか」って。

まともにヤツの眼ん玉を睨み付けた。

それでも、家男は静かに笑ってる。

そして

「俺、喧嘩って好きじゃあないんだ」って

静かな声で、ひと言。

こいつ正気か?って本気で疑ったよ、俺。

でもさ、なんて言うんだろうか
そんな家男の笑顔見てるうちにさ

・・・涙・・・

絶対にこんなヤツ
ぶん殴っちゃあいけない、って思っちまって。

なぜだかわかんないんだけどね、今でも。

小さい頃、悪さして叱られて
お袋に水でもぶっかけられた時みたいに
どうあがいても怒ることが出来ないんだよ

あいつに対してさ。

全く気分をそがれちまった、俺

そしてツレ達。

でくの坊のように立ちつくす俺たちの周辺を
ドッチラケて間抜けな空気が支配しはじめた。

まさか、このまま
夜中まで立ってるってわけにもいかねえから
おもむろに、俺は家男にいった。

「お前は根性あるみたいだし
ちょっと面白そうなヤツだから
これからは一緒にツルまないか?」って。

あいつ、あいかわらず笑いながらさ

「勿論だ、今日からダチになろう」って

手を差し出して

俺、なんか嬉くって嬉くって
鼻の奥がグジュグジュしてきて、涙まででてきて
でも、他のツレの手前ヤッパ恥ずかしかったよ。

なんか、泣きそうな顔で握手してたって
後でそこにいたツレから聞いたんだけど。

俺は覚えてないんだけどね、そんなこと。

でも、帰り道

俺はヤッパ、ツレの手前
カッコ悪くって黙りこくってたんだ。

そしたらさ、ツレの一人が

「俺も家男って好きだよ」って

それから

「あいつ絶対喧嘩強いと思う」なんて始まって
その日は家男の話で持ちきりだった。

さっきも言ったけど
ハンサムだとは思わないよ、家男のこと。

でも、ヤッパ最高にカッコいいヤツだよ家男は。

俺たちみたいなチンピラの中ではさあ
なんか飛び抜けてんだよね。

何が?って

俺たちにだってわからねえ、そんなこと。

そんなこんながあって
おれ達は家男とツルみはじめた。

しかし、付き合えば付き合うほど
ホント不思議なヤツなんだ、家男ってヤツは。

タバコは吸わねえ

酒だって舐めるほど、ちょっとしかやらない。

もめそうになっても絶対に手を出さない。

大声すら出したこともないんじゃあねえかな。

あっ、そういやあ実はこないだ
こんなこともあったっけ。

つい先日のことだよ。

駅前のフラワー商店街をうろついてて

やれ、眼があっただのガンたれたのって
眉毛そって墨(スミ)入れてんのに
いちゃもんつけられて、裏道に連れ込まれたんだ。

誰が?って家男がさ。

そんで、胸ぐらつかまれて揺さぶられて
露骨に喧嘩うられてんのにさ・・・。

もちろん、俺たちだって黙っちゃいない。

いや、しかしそれよりも
クソ度胸って言うか

それとも、本当に馬鹿なのか家男は?

また、あの笑顔だ。

そして言うことも同じ

「俺、喧嘩って好きじゃあないんだ」。

いちゃもんつけてた“まゆげ”のヤロウ
まったく動じない家男に対し
今度は逆にびびリマくっててさ。

だって、絶対普通にはみえないから
そんな時の家男なんて。

「てめえ、次から挨拶なしじゃあ承知しねえからなぁ!」

って腕まくりして墨(スミ)見せてんだけどね。

家男はまったく平気な感じで、やっぱりわらってんだ。

声、震えてんだよね“まゆげ”の。

「うん、わかった」って

まったく普通の声で、家男。

相変わらず笑顔。

俺のツレが後から笑いながら言うには

“まゆげ”の野郎、最後には目に涙ためてたって。

なるほど、言われてみりゃぁ
こちらを振り向こうともせず
小走りに去っていくヤツの足

後ろから見てても、確かに震えていた。

それから・・・?

実はね

それから“まゆげ”野郎は街で家男を見かけると
顔引きつらせて逃げ回るようになったんだ。

一度なんかゴミ箱引っかけて
俺たち大笑いだったんだが

そんなハラ抱えて笑う俺たちを見ながら

「やめろよ、かわいそうじゃないか」って

家男がひと言、静かに言った。

ヤッパ、家男は喧嘩が絶対に強いんだと思う。

でも、普通にツルんでる時の家男は
本当に当たり前のイイヤツだ。

タバコは相変わらずやらないけど
酒はちょっとだったらいけるようだ。

とにかく話がうまいし
こちらをいつも笑わせてくれる。

実は
調子こいて飲み過ぎ酔いつぶれて
家男に担がれて家に帰ったことも
何度かあったんだが

家男が酔いつぶれたのなんかは
一度も見たことはない。

あ、そう言えばこれも不思議な話だ。

俺んチはオヤジがいなくてお袋だけなんだが
お袋はいつも俺のツレを
ゴキブリみたいに毛嫌いしている。

そんなお袋も、なぜか家男だけは
出会ったその日から特別に気に入ってしまって
なんかあると「家男ちゃんは、家男ちゃんは」って
うるせいのなんの。

街で、すれちがったりしたら
そりゃあ大変だ。

「家男ちゃん、家(うち)のが
馬鹿なことしでかしそうなったら
遠慮しないで、ぶん殴ってね〜!」なんてさ

反対側の歩道から大声でわめいてやんの。

かっこわるいやらなんやらで。

でも家男のヤツはそれに答えて

「ピーターのかあちゃん、大丈夫だよ
ピーターは見た目ほど悪いヤツじゃあないから」って。

オフクロの嬉しそうな顔ったら

俺には一度も見せたこともない笑顔で

「ホント、あんただけが頼りなんだ家男ちゃん
くれぐれもよろしくね〜」って

へん!わけがわかんねえ。

さて、そんな俺たちでも
やっぱ、真面目に不良やってる限りは
縄張りやらメンツやら、というのがある。

相変わらず家男は
どんな時でも、まったく自分から手を出そうとしないけど

気がついてみると
中坊連中が家男の周辺をうろつき始めてた。

やつらツラ見せっと
家男さん、家男さんって
うるせえのなんの。

気がついてみれば30人ほどの
“家男”親衛隊みたいなのが出来不がってて

「俺、家男さんのためなら死んでもいい」

なんてヤツも実際少なくはなかった。

まったくどうなってんのかわからないんだが
一度、特にクソ生意気なのが

「俺は家男さんをナめてるヤツはぶっ殺す」

なんて、息巻いてて
さすがにこの時は家男も怒った。

「ばかやろう、くだらねえこと言ってんじゃあねえ!
てめえとは縁切るぞ!」って怒鳴られて

そいつは「すんません、すんません家男さん
二度と馬鹿なこと言いません」って

殆ど半泣きだ。

イヤ実際に泣いてたな。

そんな具合だ。

家男って、妙にガキになつかれる。

まあ、しかし
たとえガキでも兵隊は兵隊だ。

気がついてみれば俺たちのチームは
100人ほどの大所帯になってて

さすがに地元のヤクザさえもが
一目置くようになってた、と思う。

しかし実は

当時の新小岩を占めていたのは
総勢300人ほど+中坊の構成員100名ほどの
未曾有の大所帯を誇るチーム。

聞くところでは秋葉原(バハラ)から
市川までをまとめ上げているとか言われている

その名も「紅蓮邪悪連合」。

元々は「紅蓮」と「邪悪」という名の
対立グループだったのをある男がまとめ上げた。

まあ、この界隈では知らないヤツはまずいないだろう。

通称「グレンジャー」。

俺たちもサシで負けるつもりはないが
さすがに兵隊の数が違いすぎる。

その上、「グレンジャー」には
ヤクザのバックもついているという噂だ。

さすがの俺たちも
奴らの存在には正直ビビってた。

大将は桂木悟朗って名前の
極真空手有段者で現在某私立高校3年。

そう、こいつが 「紅蓮」と「邪悪」を
腕一本でまとめ上げた張本人だ。

とにかく、腕っぷしが
めっぽうハンパじゃない野郎で

以前、イチャモンつけてきた地元のヤクザ3人を
たった一人で半殺しにして病院送り。

結果、逆にやられた側の
ヤクザの大親分に気に入られてしまった、という

ま、間違いなくハンパじゃあない。

身長1m90B、体重は90キロぐらいか?

鍛え抜かれた肉体は
ヤツの、紺色の制服の上からでも
十分うかがい知れる。

額と頬に大きな切り傷があるが
それさえなければ俳優にでもなれそうな
どちらかと言えばハンサムで渋い面構えだ。

野郎の実家は都内でも
有数で大手スーパーマーケットの経営者で
オヤジは戦後の闇市でかなりキワどいことをして
成り不がった野郎だと聞く。

運転手付きベンツに揺られながら
葉巻を吹かして通り過ぎるオヤジのツラは
この俺も数回目撃したことがある。

ハッキリ言って悪党面だ。

政治家にも顔が利くという話だが
どうせ、あのオヤジと似たり寄ったりな奴らなんだろう。

所詮は汚らしいゼニ持ちオヤジ達よ。


02.「ピーターとアンドレ」

さて、そんなこんなでグズグズと
明るくないセーシュンを
日々送ってたよい子のボクたちなんだが

とにかく、月曜日から金曜日まではほとんど最悪で
オフクロの手前学校には行くものの
ほとんど毎日“ハライタ”で早引きし
行きつけのサ店に行く。

いい加減、高校生にもなると
担任の先公も何も言わない。

俺の虚弱体質を知っちゃっているから。

そんな、体が弱い僕たちは
決まり切ったようにいつもの安っぽいサ店に
いつものメンバーで集まっては、ほとんど皆勤賞もの。

ばかばかタバコを吹かすワケなんだけど、ワハハ。

そんな、くだらない日常を
繰り返し繰り返し送っていると
妙に退屈すぎて苛ついて

とにかくなんっかおこんねえかな〜

火事でも大地震でも戦争でもいいからさ、ナンテ・・・。

目の前に並べられた灰皿は吸い殻とハイでてんこ盛り。

この店の、無愛想な赤毛のネーちゃんが
無精でなかなか灰皿を取り替えにこない。

もっとも
アイスコーヒー一杯で粘りまくる俺たちだから
やる気にならないのもわからんでもないが・・・。

店の名前は「樹里庵」

俺たちのたまり場だ。

マスターは元ヤクザで左手の小指がない。

もちろん、俺たちに対しても
説教がましいことは一切言わない。

ただ、シンナーとシャブは
この店の中では御法度だ。

なんでも、マスターは俺たちと同じ年頃に
シャブにハマって地獄を見たとかいう噂だ。

いつものように、いつものサ店で
ダベりながらタバコふかしてたむろってる俺たち。

そんな時
厚手スモークガラスの自動ドアが軋りながら開き
俺たちメンバーの一人が飛び込んできた。

風邪にあおられたように
部屋中に充満していたタバコの煙は渦を巻く。

飛び込んできたそいつの名前は「安藤玲」。

俺の古くからのダチだ。

あだ名は「アンドレ」。

「あんどうれい」だから「アンドレ」って・・・

これだってナンカ外人ぽいだろ(^_^)。

こいつはタッパがない。

1m60ギリギリぐらいじゃあないだろうか。

それをアンドレはすごく気にしていた。

ガキのころはかなりいじめられてて
結果、俺たちとツルむような
正当派のチンピラになってしまった。

だいたい、先生が悪いね。

これは一晩明かしでアンドレから聞いた話なんだけど
ちょっと酒が入ってたからあいつも話せたんだろうな。

話をしながら、途中で息が上がって
興奮を抑えきれず中断することも何回かあった。

よほどイヤな思い出だったんだろう。

ネえ、ちょっと聞いてくれよ・・・。

ホント嫌になる話だけどさぁ。

実は小学5年生のころ
やっぱりチビだったアンドレは
学校では毎日日課のようにいじめまくられてて

ある時
女達の前でパンツ脱がされて
さらし者にされ

さすがに逆上したあいつは
近くにあった石ころをつかむと
力一杯投げつけたんだけど

運が良い(悪い)ことに
見事にボス格のガキの額にド命中。

顔面を血で染めた敵は
泣きじゃくりながら病院に担ぎ込まれ3針縫った。

ことを知らされた相手のオヤジとオフクロは
すぐ翌日に学校に怒鳴込みに行き

結果、朝のホームルームの時間に
アンドレは担任の先公から
怒気を含んだ声で呼びだされた。

おずおずと、席から立ち不がるアンドレ。
クラスメート全員の目がアンドレを注視する。

この担任の先公、名前は大沼。

イヤらしいエリート意識をむき出しにした
ヘドがでそうなポマードクセえ野郎で

黒縁めがねの七三分け
痩せ面(おもて)の青白い男。

年の頃は当時30前後だった。

いつも白の開襟シャツにモスグリーンのネクタイ
モスグリーンの折り目がきっちり付いたダブルのズボン。

何が気分が悪いって言って
この野郎は、父兄や校長には
いやらしく這い蹲っては米つきバッタするくせに

生徒に対しては横暴で
ことある事にブン殴ることでも有名だ。

こいつから教壇に来るように命じられたアンドレは
人前限らず泣き出したい気分でいっぱいだった。

野郎はいつものネチネチとした口調で
アンドレをいたぶり始めた。

「なぁ、安藤・・・
自分がやったこと、解ってるのか?」

静かだが、怒りで声が震えているのが解る。

運が悪いことに、3針塗ったガキのおふくろは
ここ二年越しでPTA会長だ。

「ん?なんか言いたいことがあったら言ってみろ」

薄ら笑いを浮かべながらヤツは言う。

教室中にイヤな雰囲気が充満する。

「どうした、うん?・・・」

ほとんど、なぶり殺しだ。

・・・

5分くらい、時間が流れただろうか・・・

「お前はなあ、友達に暴力をふるったんだぞ」。

アンドレの目をのぞき込みながらヤツは言う。

「友達が血を流して苦しんでいた・・・」

再び、諭すように言う。

ヘドがでそうな優越感。
・・・
「あんなやつは友達じゃあない!」

「友達じゃあないよ、あんなヤツは!!」

押さえきれない慟哭の中
アンドレは涙をボロボロ流しながら喚いた。

ビンッ!

一瞬、先公の右手がアンドレの頬をとらえる。

返しざまに、手の甲を使ってもう一度
反対側の頬にビンタを喰らわした。

涙と鼻水が同時に流れ始める。

「先生だって、暴力ふるってるじゃあないか・・・」

泣きじゃくりながらアンドレ。

「理屈を言うな!」

怒号と共に野郎は再度
感情にまかせた往復ビンタを喰らわした。

うつむいたアンドレの顔面からは
ぽたぽたと、涙と鼻血のしずくがこぼれる。

木目の床に出来不がる涙と鼻血のモザイク。

・・・

暫く間が空き

再び、ネチネチとした口調が始まり

・・・先公の声。

「なあ、安藤・・・先生はな
お前が憎らしいから
こんなことをしているワケじゃあないんだぞ。

解ってもらいたいんだ、お前に・・・。

お前に、社会のルールとか
我慢するとかいうことを解ってもらいたいんだ」

絶望感の中でしゃくり不げているアンドレ。

「なあ、安藤・・・ここでパンツおろしてみろ。

なあ、みんな安藤がパンツおろすところ見たいよな〜」

おどけた口調で先公が提案すると
クラス中が一気にどっと笑う。

「なぁ、安藤、早くパンツぬげよ〜」

「パンツおろせ!安藤
お〜いみんなで言ってやれよ、安藤に」

学級委員が最初に口火を切った。

「安藤、パンツぬげ!」

全員、再び哄笑。

堰を切ったように大合唱が始まる。

「パンツぬげ!パンツおろせ!!」

リズムをつけながら合唱は続く。
クラス全員の顔は、弱者をいたぶる快感に酔いしれ
男も女もみいんな、醜い笑顔で歪んでいる。

・・・

突然! 右方向からガラスの破裂音。

アンドレがポケットにあった10円玉を
先公めがけて思い切り投げつけたのだ。

しかし、アンドレの怒り狂った感情が
大きくその方向をそらし

渾身を込めて投げつけた10円玉は
向かって右側にあったガラス窓一枚をたたき割った。

「この野郎!」

先公が吠える。

その時

「あ〜!あ〜あ〜!!」

突然、奇妙な声で絶叫するアンドレ。

皆一瞬、彼は狂ったのだと確信する。

顔面は涙と鼻水でグチャグチャだ。

意味不明の鳴き声を張り不げながら

アンドレは出入り口の引き戸に思い切り突進した。

ガラスが鋭い響きと共に炸裂する。

もう一度!体当たり!!

ドアは激しい衝撃音と共に外れ倒壊し
気が付いてみると、アンドレはそこから消えていた。

ある女子生徒が

「あ、校庭を走って逃げていきます!」と

金切り声を張り上げ先公に報告した。

明くる日から
アンドレの登校拒否が始まった。

その後、どうやって無事に
あいつが小学校を卒業できたのか
俺たちは何も知らない。

なんでも、青白い顔をした
小柄で痩せぎすの、アンドレのかあちゃんが
数回、職員室に呼び出されたということだ。

アンドレのかあちゃんは
帰り際、いつも目を泣きはらしていたとも聞いた。

本当に、先公なんて皆ひでえことをしやがる。

しかし、俺がアンドレに出会った中二のころ
ヤツはことある事に教師にたてつく
すでに、いっぱしの不良になっていて
実際、アンドレに本気で泣かされてしまった
女の先公も何人かいたくらいだ。

同級になり最初は牽制し合ってた俺たちだが
気が付いてみればマブダチになっていたってわけだ。

まあ、不良が不良とつるむなんて
珍しいことでもなんでもないんだろうがね
この世の中一般じゃあ・・・。

さっきも言ったように
アンドレは自分のタッパを気にしている。

そして、ヤツは鼻の頭を妙な具合にしかめるクセがある。

何でも、チックとかいう病気らしいのだが
これも例のクソ担任の先公にぶん殴られてから
発生し始めたということだ。

当然アンドレは、ほとんど全て先公を
犬の糞のように嫌い、憎悪している。

聞くところによると
アンドレにビンタ喰らわした先公は
今では教頭にまで出世したそうだ。

ホントに世の中なんて
クソくらいやがれってんだ。


03.「アンドレ」

ちわっ、ピーターっす。

実は最近、妙なことが起こった。

ホラ、以前話した例の
アンドレの元担任、クソ陰険野郎。

あいつに
なんと、出くわしちまったんだよね。

もめたかって?
イヤ、もめたといえばもめたのかな・・・

でも、暴力沙汰じゃあない。

それがさあ
ナンカとんでもなく変な方に話が行っちまって

とにかく
まあ、聞いてくれよ

まだ、つい先日のことだ。

ハッキリ覚えてるから・・・

う、しかし寒いっすね〜。

しかし、もうすぐ正月って
も〜いくつねるとお正月〜って、オッとゴメン。

俺たち真面目な不良も年末になると

一年を振り返って反省するために忘年会をやるんだ。

なんちゃって、ホントはダチと集まって
飲み食いしながら馬鹿話するだけなんだけど・・。

場所は、いつもの「樹里案」。

ソーセージや焼きそばでビールやウィスキー飲むんだけど
元ヤーさんの、ここの店長は
酒とタバコにはうるせいこと言わねえ。

いつものメンツ、そう12〜3人ってとこか。

そんないつものダチが集まって
お互いのセーシュンを謳歌しあってたんだ。

アンドレ?

もちろん一緒だよ。

そして家男も・・・

実は、アンドレにはハナをしかめるクセの他に
もう一つくだらない病気ってかさ、そんなのがあるんだよね。

そっ、あいつはシンナー中毒ぎみで
いつも、シンナーの臭いをプンプンさせている。

前歯なんか、気持ち悪いくらい真っ白だ。

俺もやめさせてえ。

ヤッパ、シンナーは絶対によくない。

さて、いつもの「樹里案」にて

タバコの煙もうもう・・・

あの時は・・・・そうだな

最初からガンガンにコークハイいって

適当に酒がまわりはじめて宴会絶好調!

そんな時だよ・・・

いつものさ、自動ドアが開いて
背広姿のオッサンどもが入ってきた。

その数は5人

皆一様に赤ら顔。

語尾のろれつ回ってないヤツもいて
もうすでにどこかで盛り上がってきたんだろう。

俺たちの隣テーブルにどやどやと腰を下ろすと
めいめいにビールやコーヒーを注文した。

ふと、俺の左斜め前に座っていたアンドレが
いつもの癖だ、ハナをくしゃくしゃやっている。

イヤ、いつもどころじゃあない
酷い具合だ、たまに手で鼻を押さえようとして・・・

そして、やっぱシンナーくせえ。

さすがの俺もちょっと心配になって

話しかけようとすると、アイツの顔が真っ青なんだ。

手足もガタガタ震えている。

と、突然
オッサンの一人がこちらを見ると

「お〜、おい!お前」

アンドレはまだ

うつむいてブルブル震えている。

まるで、悪い病気にでもかかったようだ。

「お前、安藤か?ホラ、担任の大沼だ、忘れたのか安藤!」

黒縁めがねの野郎が
店中に響き渡るようなバカ声でアンドレに話しかけた。

その距離5メートルぐらいか・・・

俺はやっと悟った。

こいつが例の担任か・・・

「こらあ、返事せんか!安藤」

「まったくぅ、お前ってヤツは全然変わっていないな
ナンだ、なに鼻をくしゃくしゃさせてる、ワーハハハ」

上目遣いに鋭く、ぎらつくアンドレの目。

長いつきあいで、俺には解る。

アンドレはケツのポケットに手を入れ
ナイフを握っている。

さすがに、俺はヤバイと思って

「おい、なにしてんだアンドレ」って・・・

「あんどれ〜?ワハハ、なんだぁそりゃあ
安藤!お前アンドレなんて呼ばれてんのか〜?」

軽蔑意識を露骨にちらつかせながら野郎は笑いとばす。

とっさに、立ち上がろうとするアンドレ

と 、突然、家男が言った。

「やめてくれよ
アンドレはもう、あんたの生徒じゃあない」

言われた先公はゆっくりと上体を起こし
中腰になりながら

「なんだと、小生意気な〜
お前は誰だ、どこの生徒だ!」

と、酒臭い息で喚く。

「こんなところでタバコすって酒を飲んで
見るからにまともな生徒じゃあないな、お前ら・・・

なんだああぁ、お前らのその格好は・・どいつもこいつも!」

ヤツは再度、喚き毒づく。

「あんたがどこの先生かは知らないが
俺の友達をバカにするのはやめてくれ。」

静かな声で
しかしハッキリとした声で家男は言う。

「きさま、名前と学校名を言って見ろ!この落ちこぼれめ!!

さあ!一人一人名前を言え!」

先公はまだ喚いている。
、、、

「人に名を訊く時は自分から名乗るのが
まともな人間の礼儀ってモンじゃあないんですか?先生」

やるぜ、家男!俺は心の中で叫んだ。

「まあまあ、先生落ちついて・・・」

横にいた50がらみのオッサン
小太りの禿頭、おそらくこいつも先公、が
喚きまくる黒縁メガネをなだめる。

「いや、私はいち教育者として許せんのですよ
こいつらみたいな落ちこぼれの、社会の屑どもが」

「先生、神様は人間を平等に創られた、っての御存知ですか」

家男が言った。

家男はちょっと、微笑(わら)っている。

「神様だと〜なんだぁそれは!この落ちこぼれがぁ〜」

ハナであざ笑うとヤツは続けて言った。

「ここにおられる先生方はなあ
皆、物理学者やら天文学者の方々なんだぞ!」

そう言うとヤツは家男を
ナめきった目で、教師くさく睨み付けた。

「でも、俺のおふくろはいつもそう言ってます。」

まったく、ひるまない家男。

先公は、アンドレが「思い出すとヘドがでそうだ」
と、言っていた例のネチネチとした口調で語り始めた。

「ふん、だからお前みたいな
出来損ないが生まれるんだろうなあ〜。

なあ、偉そうな顔をしやがって

じゃあ、お前は見たことがあるのか〜?そんなのを。

え?神様ってのを見たのか?

実際にその目で?!

数式や科学理論を用いて

実証することができんのかぁ〜オイ!

何が、神様だ、ケッ・・・

私たち学者は理論主義者、自分で実践確認
理論立てることが出来ないモノを認めることはないんだ。

これを実践理論主義という。

大切なのは証拠、証拠なんだよ!

まったく何が神様だ、馬鹿馬鹿しい。

もっと理論的に物事を考えろ!

お前らみたいな劣等生には解らんだろうが
光は一秒で地球を7周半できる速度を有する。

そんな光が何億年かかっても
果てまで到達できない、そんなのが
私たちが存在するこの宇宙なんだ!

なあ、お前らも少しは本というものを読め!

どいつもこいつも
アメリカのちんぴらみたいな格好しやがって

このバカどもがぁー!」

先公の鼻息と優越ヅラ・・・イヤらしいニヤニヤ笑い。

「じゃあ、先生は見たことがあるんですね
光が地球を7回半回るところを」

家男が問う。

先公 「ば、、か、みられるわけないだろうが」

家男 「実践理論主義者じゃあないんですか?」

先公 「屁理屈を言うな!

そんなことは計算上で理論立てることが出来るんだ」

家男 「デモ、先生だってそれを本で読んで信じ込んでいる」

先公 「こ、この不良学生が・・・」

家男 「本を読んで信じ込んでいるだけなら
宗教の本を読んで神様を信じている人と
なにも変わらないじゃあないですか」

先公 「へ、屁理屈を言うな屁理屈を!」

声が裏返っている。

その時、横にいた50ヅラが口を開いた。

「まま、おやめなさい
先生、お酒が少し過ぎますよ・・・」

「イヤ、先生、、、
私はいち教育者として許せないんです。

なあ、安藤
お前もこんなクズと付き合っていると
ろくな人間にならないぞ。

実際、なんてかっこうしてるんだお前らは!!」

アンドレの顔は真っ青だ。

「俺たちが屑なら
酒を飲んで喚いているアンタは何者なんなんだよ!」

思わず俺は怒鳴った。

「人間を外見で判断するなんて
一番恥ずかしいことじゃあないんですか?先生」

家男は静かな声で言う。

「こここ、この野郎!落ちこぼれめが!!」

その時!

「いいかげんにしなさい!」

50ヅラが遂に立ち上がって大沼を叱りつけた。

突然、ヤツは子犬のようにしょぼくれた、が
それでも、上目遣いに家男を睨んでいる。

50ヅラは家男の真正面に立つと
煙臭い室内をゆっくりと眺め回し
静かだが妙に貫禄のある低音で話し始めた。

「イヤ、失礼した。

そうさね、君の言うとおりだ。

まずは自分から名乗ろう。

私の名は苅田重三

**大学で物理学の教鞭を執る者だ。

そして、君は?よければ
君の名前を聞かせてくれないか?」

家男が微笑む。

こんな時の、こいつの笑顔が素晴らしい。

どんな映画俳優よりも格好いいんだ。

「俺、来栖家男って言います」

家男は握手の手をさしのべた。

大学教授はこんな家男を見ながら
つくづく感心したようだ。

教授は家男の手を握り返し、話を続ける。

「しかし、家男君?だったよね。

君はその若さで、かなり的確に状況判断をし
理論構築しながら反論を進めているようなんだが

一体どこで
それらの弁証法的な対応を学んだんだい?」

照れ笑いしながら家男が答えた。

「弁証法とか理論構築ってなんすか?」

教授の顔が思わずほころぶ。

「いや、すまん。

そのつまりだ

君が先ほど語った神様についての考え方なんだが
確かに、我々はその存在を否定的に考えてはいるが
かといって、科学が万能だなんて横柄なことを
宗教みたいに信じている訳じゃあない。

しかし、現実問題として
神を信じるというコンセプト、おっと
難しかったかな、そのつまりナンダ

神様を信じる人間の心とか考え方が
本当に人類の未来にとって必要かどうか?

それを考えると、やはり神様という存在に対して
我々は批判的にならざるを得ないんだよ。

おそらく君も知っての通り

宗教は過去から現在まで
様々な戦争を引き起こす大きな要因になっている。

どうかね・・・」

教授のやさしそうな目に
ちょっと意地悪な視線が浮かんだ。

やや間をおき、、、家男は答えた。

「俺は、こんなチンピラですし
頭もあんまり良くはないんです、だから
難しいことはホントに解らないんですが

でも、もしみんなが本当に本気で神様を信じたら
戦争はハナから起こらないし、人が人を憎むなんてことも
なくなるんじゃあないかと思っているんです。

俺たちは車やバイクが好きで
それが科学によって作られたことは皆知っている。

でも、
やっぱり車は車だしバイクはバイクだ。

人間って車に比べてヤワなモノだけど
でも、もっともっと大きいみたいな

やはり、いまだに誰も創り出せないような
なんか、そんなモノって気がするんです。

金じゃなく、ファッションじゃあなく、車じゃあなく
ヤッパ人間なんすよ、俺が一番すごいと思うし
大きいと思うし、そして大切なのは。

俺、神様って確かによくわかんないっす。

とうちゃんとかあちゃんが一発やって、俺達が生まれて
とうちゃんとかあちゃんは命がけで俺を守って
それで、俺は今まで生きてきた。

こんなことがずっと昔から続いているんだろ?

世界中のとうちゃんかあちゃんはみんな
自分のメシ削ってもガキには食わせるんだよね。

自分の命、犠牲にしてガキを守るんだ。

なぜ、そんなことが起こるんだろうか?

とうちゃんもかあちゃんも腹は減るんだ。

おんなじ人間だから命だって惜しいはずだ。

それなのに、なぜ
自分たちよりも自分のガキが大切なんだってね。

俺にはホントわかんない。

でも、こんなの
わかる必要があるんだろうか?本当に・・・。

実は神様ってのが
そんなののド真ん中にいるんだって考えた方が
頭が悪い俺にはわかりやすい。 

そうやって考えてみりゃあ
世界中の人間はみんな血を分けた家族だ。

かあちゃんが俺に教えてくれたんだけど
神様は自分に似せて俺たち人間を創った。

ならば、やっぱり絶対に
そいつら同士がいがみ合ったり殺し合ったりしちゃあ
だめなはずだ。

みんな同じ家族じゃあないか、ってね。

イヤミじゃなくさ、先生達だってさ
人間を不幸にしようとして科学を発展させたワケじゃあないし

実際、先生達だって、まさか人を不幸にしようと思って
研究してるワケじゃあないでしょう?

でも、科学で生まれた車は人をひき殺したり
原爆なんかが沢山の人間を殺したわけです。

考え違いをしたり、使い方を間違ったりすると
とんでもねえことになっちまう、ナンテ

神様と科学ってすごく似てると思うんですよ。

でもさ、先生
神様が本当にまちがいなくいて
俺たちを皆愛してくれているとしたら・・

そして俺たちがそれを本当に理解することが出来たら
やっぱり殺し合いなんて、絶対の起こるはずがないんです。

みんながみんな本気でそう信じて
俺たちみんなが家族なんだって信じられたら
ヤッパ、戦争なんて絶対におこんないんですよ。

そう、思いませんか?

じゃあ、科学は?

科学を信じれば戦争はなくなるんでしょうか?

殺し合いは本当になくなるんでしょうか?

科学をみんなが心から信じれば・・・

でも本当のところ、科学はへたすりゃあ
人間を全滅させちゃうんじゃあないですか?

世界中、科学者が創った爆弾だらけでさ。

未来の為に神様を否定して
科学者がいっぱい爆弾作って戦争して
でもそのおかげで人間が全部死んじまったら・・・

そんな科学者が創った新型爆弾で
俺たちみんなぶっ殺されちゃったら

本当に科学は人間の味方なんて
言えるんでしょうか?

先生達は頭がいいからわかるはずだ。

でも、そんな頭のいい先生達が世界中にいて
なぜ、それでも戦争はなくならないんですか?

どうか、教えて欲しいんです。

俺が言ってること間違ってますか?・・・」

途中から俺にはさっぱり理解できなかった。

ただね・・・

家男ってヤッパただのヤツじゃあないって
改めて思ったんだけどね。

家男の話を聞きながら
大学教授はゆっくりと頷いては
家男の顔をまぶしいような眼差しで見ていた。

そして、聞き終わると
ゆっくりと感動を込めた面もちで話し始めた。

「人類愛と科学は同時に成立すると
私は信じている。

そこに、神という存在が必要かどうか?

神の存在抜きで人類愛は
はたして成立できるのかどうか?

・・・

君はそんな子供のような笑顔で
ナンと究極的で且つ残酷な命題を
我々に突きつけるんだ。

う〜ん、これは未だ探求されるべし!

人類の宿命的な議論ではあるな・・・

実際、アインシュタインですら神を求めた・・・」

終わりには、ほとんど独り言のようになっていた。

ふ、と気を取り直したように
教授は家男の手を取ると

「いや、感動しました。

君たちのような若者が未来を創ると思うと
私は確かに神を信じたくもなる。

ワハハ、しかしこれは
物理学者にはあるまじき、かな?」

ここまで語ると大学教授は大きな声で笑い始め
やっと笑いが収まると教授は再び家男に聞いた。

「しかし、君たちは
いつもこんな話をしているのかい?

正直、仰天させられてしまったんだよ。

本当に、人は外見じゃあないな

イヤ、家男君!君の言うとおりだ。」

家男はにっこりと笑いながら

「そうですね、アンドレとはよくこんな話します」。

アンドレは、へ?て顔をした。

家男は微笑んでいる。

大学教授はとろけそうな顔で
そんな家男を見ていた。

さて
ことの発端、アンドレの元クソ担任は?

気が付いてみると
だらしない顔でソファーにもたれかかりながら
小さないびきをたてて居眠りしてやがる。

ヨダレがこれまただらしなく
襟元からモスグリーンのネクタイを汚している。

大学教授はへべれけなそいつを
結構乱暴に揺り動かしながら

「さあ、話は終わりです、帰りますよ!
実践理論主義者の大先生!」

「いや、しかし私は〜いち教育者としてですね〜・・・」

へべれけ野郎の言葉は途中で意味不明になった。

やれやれ、ナンテふりをしながら大学教授は
ちょっと不器用なウィンクして俺たちに微笑みかけ
店長にタクシーを呼ぶように、と頼んだ。

揺り起こされ、二人の連れあいの肩に担がれながら
へべれけクソ担任のクソバカ野郎は

「この落ちこぼれが〜・・・」と

定まらない視点とへべれけ口調で
本日最後の捨てぜりふを俺たちにはいた。

タクシーが着き
酔っぱらいを後部座席に放り込むと
大学教授は家男の方に改めて向き直り

「君に会えて本当に良かった。

これからは私を
老いた友として君らの仲間に入れてくれ。

うん、未来は明るいかもしれない
しかし!もっとも、この頭じゃあ
君らみたいに髪を盛り上げることはできんがな」

そう言うと
教授は自分の禿げ上がった額を叩き、再度の大笑い。

そして・・・再び家男の両手を堅く握りしめた。

数分後・・・

タクシーは古新聞氏を舞あげながら去っていった。

・・・

帰りの道すがら
いつものようにフラワー商店街をくぐり抜ける。

当然だ、店は全部シャッターを閉めている。

真夜中用の薄緑っぽい街灯に照らされながら
アンドレは妙に黙りこくっていた。

なんか、怒ってるようにも見える。

気まずい雰囲気さえ流れて

歩きながらアンドレはポツリと言った。

「俺は感謝しねえからな・・・」

暫く歩く・・・

また

「俺は頼んじゃあいねえ」

ちょっと語気が荒くなっている。

突然、足を止め

「なぁ、家男!
俺はいっぺんも頼んじゃあいねえぞ
助けてくれなんてよー!」

アンドレが家男に喚いた。

カッとなった俺は

「バカ野郎、家男がテメエになにしたってんだよ!」

ぶっ飛ばしてやろうかと思ったくらいだ。

家男はチョット悲しそうな顔をした。

話はとぎれて、また三人でとぼとぼ歩き始める。

東の空が、薄明るくなっていくのがわかる。

う〜さびい・・・

鼻水が凍りそうだ。

北風がほっぺたを切るようだ。

と、

「家男、俺ってバカなんだ」

唐突に、アンドレがまた口を開いた。

「アンドレ、お前はバカじゃねえ」

家男はゆっくりと答える。

「イヤ、バカだ」 と、またアンドレ。

「イヤ、バカなんかじゃあねえ、オメエは」

家男は静かに、だけどしっかりと答えた。

え・・・?突然

笑い声みたいな、泣き声みたいな
・・・・・奇妙な声を背中で俺は聴く。

「グフグフ、グフフ・・・」

俺は思わず振り向いたね。

アンドレが泣いている、ガキのように。

アンドレはチビガキのように地団駄踏むと
いきなり家男に、しがみつくようにむしゃぶりついた。

あっけにとられる俺には
何が何かまったくワケがわかんねえ。

「家男ー!家男よー!」って喚きながら
大泣きに泣きじゃくっているアンドレ。

「俺ってぇ!お前の友達だよなぁ!
なぁ、家男!俺って友達だよなぁ!」

アンドレは家男の胸に顔を埋めて
ガキみたいに泣きじゃくりながら
ばかでかい声で喚いている。

フラワー商店街の
スレート葺き屋根にまで声が反響した。

数分後・・・

次第に、アンドレはすすり泣きに変わり

家男は改めてこう言った。

例の、あの最高の笑顔でさ・・・

「バカ野郎、言ったじゃねえか
アンドレ、お前は俺のマブダチだってさ」

革ジャンの袖口を
涙でグシャグシャやってたアンドレが
突然、家男からがばっと離れ大声でがなった。

「家男、俺シンナーやめるよ!
絶対にシンナーやめるよ!!」

・・・

・・



それから一ヶ月
アンドレは完璧にシンナーをやめた。

これには俺も驚かされたね。

あいつが自力でシンナーをやめたなんて・・・

だって
正真正銘の中毒だったんだぜ、アンドレは。

アンドレは今、ボクシングジムに通っている。

相当、強くなったという話だ。

来年春にはプロの試験を受けるとか
笑いながら結構自慢げに俺に話していたぜ。

そして、もう一つ

あの、例の先公
アンドレの元クソ担任は

なんでも女生徒にちょっかい出したとかで

学校をクビにされたいう話を
俺たちは風の噂で聞いた・・・。

しつこいようだが、もう一つ。

ある日、家男と二人で歩いてた時
通りで偶然にアンドレのおふくろさんと出会った。

無口な人だと聞いている。

そのとおりだった。

で、俺たちの顔を見るなりさあ・・・

青白い顔を真っ赤にしながら涙ボロボロ流して
家男に何度も何度も頭を下げていた。

アンドレが家男のこと
自分のおふくろさんになんて言ったのか

俺たちは知るはずもないけどね。

続く・・・

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